4時スタートに向けて会場へ
宿泊していた貸し別荘から、軽く走って身体をほぐしながら会場へ。まだ辺りは真っ暗だ。
余裕をもって1時間前に会場入り。
グリンデルワルト市街中心部の会場には、ほとんど人気がなく、一瞬、違う場所がスタート地点なのかと思うほどだった。
しかし、場所を間違えたわけではない。
ぽつぽつと選手たちが集まってきた。
日の出前だが、Tシャツでも寒くはない。
4時スタート
ロングのレースならではの、静かな盛り上がり。尚、スタート地点の標高は1,000mほど。
最高地点はファウルホルンで、標高2,681mとなる。
いつもの私なら高山病がちょっと心配になるくらいの高度だが、数日前から現地入りして、高度順応めいたこともしてきたので、まあ大丈夫だろうと、不安はない。
まだまだ暗いので、ヘッドライトをつけてスタート。
必携品として予備も含めて2つのヘッドライトが義務付けられているが、2つ装着している選手は見かけなかった。
後述するが、岩場や鎖場などの難しい箇所は皆無だったため。
しばらくは舗装路を進む。
トレイルへの進入口。
レースを通して、唯一、ここだけが渋滞した。
空が白んでくる中、しばらくは登り続ける
少しずつ空が白んできて、雪をかぶった山並みが露わになってくる。
ストックの使用制限区間はなく、最初から使っている選手も多い。
「アイガーウルトラトレイル」といっても、アイガー山そのものに登るわけではない。
そもそも、グリンデルワルトから望むアイガーの北壁は、ほとんど岩壁であり、もはやトレッキングではなく、クライミングの領域だ。
8.3km地点エイド:グロッセシャイデッグ
このような山小屋があちこちにある。
山小屋といっても、日本の山小屋のようなこ汚いものではなく、綺麗なレストランが付いたホテルだ。
この時間帯はまだ、空は綺麗に晴れ渡っていた。
まだまだ上り続ける。
スタート地点からは一気に1,200m upする。
観光客がスニーカーでゆっくりハイキングするようなコースであり、斜度はそれほどない。
だんだん上りが苦しくなってきて、私もバックパックに装着していたストックをはずして、両手に持った。
いかにも、イメージの中のアルプスといった光景。
高い木はなく、牧草地帯が続く。
22.9km地点エイドのフィルストへ。
山頂付近から飛び出た展望台には、応援の人達が鈴なりになっている。
25km地点を過ぎる。
このようなkmポストは、コース中にはほとんどない。
しかし、分岐には分かりやすいコース表示があるし、選手の数は多く、前後に誰もいないということはほとんどないし、コースを間違える心配はまずないだろう。
雨がパラパラ
バッハアルプゼーの湖。
晴れていれば気持ちいい湖なのだろうが、だんだん曇ってきて、この頃にはパラパラと雨が降り始めてきた。
気温が高いので、そのまま走り続ける選手もいるが、先が長いので私は、使い古したバーサライトを着込んだ。
雪渓を渡る箇所もあるが、それほど大きいものではないし、滑落するような心配はない。
ちょっとした岩場だが、なんてことはない普通のハイキングコースの一部であり、ペースを落とさずに進む。
再び晴れ間がのぞいてきて、バーサライトを仕舞う。
エイドの食べ物
牛小屋の中に設えられたエイドステーション。
エイドはこまめにあるので、食べ物はほとんど自分で持たなくてもいいくらいだ。
バナナ、オレンジなどの果物。
エナジージェル、バー類。
パン、ハム、チームなどの現地食。
変わった食べ物はない。
品揃えはだいたいどこも同じ。
エナジージェル、バーは取り放題なので、エイドのたびに一つずつくらいもらってポケットに入れる。
牧草地帯を上っていく。
高い木はないので、見晴らしはいい。
最高地点:ファウルフォルンからは、ひたすら下り
ファウルフォルン 標高2,681m33.8km地点のエイド。
ここからは、デポした荷物を受け取れる大エイドである、標高1,000mのプルクラウエネンまではひたすら下りだ。
山頂付近は、平らな岩場となっている。
そこかしこに残雪がある。
北に目を向けると、エメラルドグリーンに輝くブリエンツ湖。
不思議な色だ。
氷河が溶けて流れ込んでいるらしい。
後日、遊覧船でこの湖を横断した。
雪渓をガシガシ進む。
さすがに、これだけの広い雪渓はちょっと怖い。
岩場だが、しっかりしたトレールが作られており、走りやすい。
小さなウォーターエイド。
この日は、天気がめまぐるしく変わった。
晴れると、日差しは強いし、気温もぐんぐん上がる。
汗が止まらない。
そろそろ50kmの部の選手に追いつかれてくる。
下り基調であり、延々と走り続けられるトレイルだが、だんだんダルさが身体に溜まってきて、いつの間にかペースダウンしてしまう。
日は高くなり、トレイル上には、普段着姿のハイカーの姿も増えてきて、様々な言語で応援してくれる。
日本人中高年ツアーともすれ違った。
標高が下がってくると、森林地帯に突入する。
日本の山みたいな景色だ。
木の根っこを乗り越えるような箇所もある。
50kmの部の選手たちにどんどん抜かれていく。
中間地点の大エイド:プルクラウエネン
ほぼ中間地点、53.1km地点のエイド。
ここには、荷物をデポジットできる。
暑さのためか?
胃腸がだるい。
他のエイドにはない、パスタが置いてあったのだが、食べる気になれない。
パンもハムもチーズも、受け付けない。
かろうじてエナジージェル、バーくらいしか食べられない。
靴下と靴を履き替えた。
気持ちを入れ替えて、出発だ。
集落を抜けて、トレイルへ。
「Danger」という看板が設置してあるが、せいぜいこんなものだ。
全然デインジャーじゃない。
走れる選手ならば、延々と走り続けることができるコースだろう。
ウェンゲンのエイドには、日本人女性がいた。
おそらく、現地に駐在、居住している方だろう。
日本語で二言三言を交わすだけでも、元気が出る。
雷雨によるレース中断
ウェンゲンからメインリッヘンまでは、1,000m upだ。気合いを入れて、山へ突入。
しかし、大粒の雨が降り出してくる。
使っていない牛小屋があり、他の選手曰く、レースが中断されたので、ここで待機だよ、と。
ただの雨ならばなんてことないのだろうが、山の雷は怖い。
このエリアは木々が生えているが、森林限界の上に出たら、ひたすら牧草のみが広がり、剥き出しとなるので、落雷の危険がある。
30分くらい待機しただろうか。
また新たに「一旦、ウェンゲンへ戻れ」という情報が入ってきて、ぞろぞろと登ってきたトレイルを引き返す。
避難していた牛小屋。
ウェンゲンでは、1時間半くらい(?)だったかな、待機。
観光センターの狭い階段・廊下に押し込められ、天候が変わるのを待つ。
この時点では、このままレースは中止になる可能性もあった。
「ゴンドラでメインリッヘンへ登れ、そこからレースを再開する」ということになり、歓声が上がる。
それにしても、外に出たら寒くてたまらない。
雨が降り出す前までは暑くてたまらなかったのに、身体はびしょ濡れになり、すっかり冷え切ってしまった。
ダウンを着込む選手もいる。
コースを短縮してレース再開
メインリッヘンのレストハウスでも更に1時間くらい待機させられたが、やがて、「アイガーグレッチャーに登る部分をカットし、再開する」ということになる。
コース短縮後の正確な走行距離は分からないが、ITRAのwebサイトのリザルトを見たら、「85.1km / 5175m+」とのことだ。
ウェンゲンからメインリッヘンへの1,000m up、メインリッヘンからアイガーグレッチャーへのザレ場の上りなど、美味しいところがカットされてしまったことになる。
メインリッヘンからの再開後のコースは、ほとんどフィニッシュまで下りだ。
ダブルトラックのトレイルは、走りやすい。
依然として雨は降り続いている。
身体は冷え切っていたが、走り続けているうちにだんだんいい感じに温まってきた。
雨足はだんだん弱くなる。
脚はかなり疲れが溜まっているが、「上り脚は売り切れだが、下り足はまだ余裕」という状態で、ひたすら快調にかっ飛ばした。
この季節のスイスの空は、21時過ぎまで明るい。
21時半には必ずライトをつけなくてはならないルールとなっている。
牛小屋のエイド。
長い待機時間のおかげで、昼間おかしかった胃腸もすっかり復活した。
日没を迎え、ライトを装着する。
そして、フィニッシュ。
雷雨のためにコースが短縮されなければ翌朝まで走り続けるつもりだったため、かなり心身ともに余裕を残してしまうことになり、不完全燃焼だ。
遅い時間帯のため、グリンデルワルト市内のお店はやっておらず、ビールを買うことも出来ない。
歩いて宿に戻った。
また出たい
悪天候のせいでフルコースを走れなかったのは残念。天上の景色は、イメージ通りのアルプスそのもので、飽きることがない。
全体的に走りやすいコースで、それほどきつくはない。
またタイミングが合えば走りたい。